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340 昭和16年夏の敗戦

2010-11-05 (fri)|カテゴリー:

 

故ありまして猪瀬さんに頂いた本,二冊目.

83年にでたものが十数年ぶりの文庫化.

時を経て,当時何とか生きておられた歴史の証言がよみがえる.

 

さて,開戦前から日本の敗北は運命づけられていたというのは,ある程度有名な話だが,ここでは,総力戦研究所という集団にフォーカスがあてられる.

僕自身ぜんぜん知らなかった名前だった.

 

開戦直前ではあるが昭和16年に各省庁や軍,有力企業から

優秀な30代の「とうのたった」若者達が研究生としてあつめられた.

日本の若い知能を結集して,来るべき「総力戦」に備えるためだ.

近代の戦争は過去の戦争と形をかえ国家が相手を完全服従まで

もっていく「総力戦」へと形をかえてきていた.

特に二次大戦では,資源としての石油の必需性がまし,開戦もそして戦況も

この資源によって特徴付けられていた.

 

彼らは「模擬内閣」を樹立し,戦況を刻々とシミュレーションしていた.

そして16年にすでに出ていた答えは,

奇襲作戦の成功, 海上での敗北, シーレーンを維持できず,本土空襲を受け敗戦

という流れであった.

各省庁から得られる,経済的,資源,兵站,国民の雇用情勢,など

様々なデータからうらづけられて,出した結論だった.

 

もちろん,ここからの提言が聞き入れられることにはならなかったのだが・・・.

 

この歴史の証言を組み合わせながら,日本が「理屈では負ける戦争」に

転がり込んでいった,プロセスを追っているノンフィクション.

 

さて,本書を読んでいて,思ったポイント,新たに知ったポイントをいくつか.

 

・戦前の日本は戦後の日本とほとんど変わらない.

下の意思決定システム.メンタリティ含め.

日本の歴史教育って,戦前と戦後にギャップを置きすぎですよね.

戦前というとすぐに「軍政」的状況をイメージするけど,それは明治維新から

のちの時間を考えると,その一部でしかない.

・東條英機は非常に人間的で真面目.最終的には開戦に反対していた.

ちょっと,驚いた.もう少し,知りたくなりました.

・日本型意思決定システム(合意重視)による悪循環の典型を見た.

しかし,それと同型のものは,僕たちのすぐそばに今もあります.

というか,殆どの日本の組織がそうだと思います.

・「統帥権」の問題が明確に

「統帥権」の問題こそが明治憲法の大きな穴であり,日中戦争,二次大戦にころがりおちてしまった制度的不備の根幹であったことが,実感できた.

もう一つ指摘するならば,そのような制度的不備を,憲法改正などでのりこえられず,敗戦という,ところまでいってしまった点だろう.

一旦走り出したシステムの不備は,なかなか改正できない.それが既得権益を生み出している場合などなおさらだ. 現在の日本の政治システムも様々な欠陥が指摘されているが,憲法改正の気配は見えない.

 

これは,実は「日本型意思決定システム」 と 「個人より集団の重視」ということと関係しているのではないか?とおもった.要は,既得権益をもっている人がいるなかで全会一致の改革なんて出来るわけがないんだ.論理的に.

及び,組織自体には組織を変革する力はない.組織は自らをスタビライズ,固定化するダイナミクスの方が強い(ように思う). 個人が動けないと組織は変わらないように思うのだ.

 

制度としては「改正」の仕組みはあっても,ダイナミクスとして作動するかどうかは,別問題だ.それが変えられないまま転がっていく,状況は現代の日本と恐ろしいほど重なった.そして,石油禁輸をかけてくるアメリカ. これも,皮肉なことに昨今の中国のレアアース禁輸と重なって見えた.

自国による石油を求めて戦った二次大戦であったが,現在,状況は何か変わったのだろうか? アメリカによって中東からのシーレーンを確保して貰うことで成り立っている日本経済.それが止められるリスクを常に最小化するように,日米安保などでバランスを保ち続ける戦後. そう考えると 安倍さんが「戦後レジームからの脱却」なんて言ったことに,アメリカが過剰反応したこともうなずける

もっとも,当の日本人の多くは「もはや戦後ではない」というフレーズと同じくらいにしか感じていなかったかもしれないが・・・. (ちなみに,安倍さんの「戦後レジームからの脱却」が具体的に何を意図し,何を意図しなかったのかは,今でも僕はよくわかっていない.すみません.)

 

さて,戦前から戦後,石油の時代が続いた. 二次大戦も,中東問題も,石油の奪い合いで国が動いた.化石資源はそして現在も尖閣問題を巻き起こしている.ロシアパイプライン問題. まだまだ,化石資源の奪い合いとしての国際情勢は続いている.

 

ブレトンウッズ体制で金本位制が終わり,ニクソンショックで金本位制から実質「石油本位制」へと世界はシフトした.パックスアメリカーナは,石油経済とともにあった.

 

さて,そんな近現代もあと50年以内に新たな地殻変動を迎えます.石油の枯渇です.

どう考えてもこれが人類に与える影響は「地球温暖化」以上にクリティカルだと思います.#まぁ,どちらの問題も結局「低炭素社会」は必要なんですが.

 

日本は戦前とかわらずに,未だに,石油を始めとした殆どのエネルギーを諸外国に頼っています(ある意味で奪っています.).その意味で,再び国際情勢の混乱に振り回される可能性は大いにあります.

 

ここまですすむと,日本の自国エネルギーの確保は,明治時代からの悲願とも言えるのではないでしょうか.安全保障上,太陽光発電の導入施策は,必要不可欠なように思います.

 

国際平和の為には,まず,自立して,自分が危なくなったときに,他人にちょっかい出さずとも生きていける,ちょっかいを出す他人を諫められる そんなエネルギーの自立が必要だと思います.(歴史をみるに・・・)

 

いつの時代も,歴史を繰り返さないように,繰り返す歴史に逆らうために,歴史をまなぶことは大切ですね.

 

というわけで,また,後半は本の内容というよりかは,つれづれに思ったことでした.

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