383スローネット―IT社会の新たなかたち
西垣先生の新作.
西垣通先生は,情報や心の捉え方で
僕が一番「ベース」を共有していると思われる先生.
本書は,新しい理論書というよりかは,表紙からもみてわかるように
ちょっと,エッセイ or コラム的な要素が入ったネット時代の社会批判・分析(?)の書だ.
「スローネット」という言葉は,キャッチーだ.
西垣先生は編集の方から,この「スローネット」についての本を書かないか?
と持ちかけられ,意欲が湧いたと書いておられる.
たしかに,スローネットという言葉は何か議論したくなって そそるものがある.
IT,ネットが超えた物.それは時間であり,速度だ.
実は,これは,鉄道が超えたものと同じである.
産業革命は,すべての時空間のトポロジーを歪めることで発展してきた.
その結果うまれたのがファスト社会だろう.
西垣先生はここで 我々の時間を早める,せきたてるネットをファストネットと呼び
ITの使い方はそれだけでいいのか?
と問いかける.
その対立軸としてのスローネットである.
三浦展がモータリゼーションによって,破壊される地方,町並みを
ファスト風土化する社会と呼んだのと相似だ.
0054 ファスト風土化する日本 « 谷口忠大HomePage (たにちゅーのHP
本書の多くはファストネット批判と,考察に捧げられているようにおもう.
さて,一方で,スローネットについての概念化,提案は十分ではないように思う.
文体も含めてだが,敬愛する西垣先生だが,ちょっと見切り発車が,
あったのではないか?とも思う.(失礼・・)
本質的に時空間を縮める事で,それまでの構造を破壊するIT.
そのITを担いだままで,スローネットなど可能なのか?
ろはす,スローフード,スローライフ.
これまで,いずれかの企てが,
暴力的な技術という力の前に,達成しなかったように思われる.
資本主義社会における技術発展と時間を短縮することについての
競争は濁流だ.
本書を読み終えた後だからこそ,今度お会いした時には
「スローネットとは何か?」について議論させてもらいたいように思う.
IT技術全盛の中で,ネットとリアル,ローカルとグローバルのバランスの中庸解を探るのは
私たちの研究室の使命でもある.