246 貨幣とはなんだろうか?
筑摩書房
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貨幣の本質は人間の内的深層に根差している、ということを直観させる本
貨幣とは人間と人間をつなぐ大事な大事なものなのです。
難解すぎる記述に疑問。
貨幣とは何か? という問題を「経済学」とは関係のないところから
論じようという本.
現代思想ですな.
実はこの本,僕の出身高校,京都のR高校(南じゃない方)に,何の因果か読んだ本だったのだ.
そのときは,とにかく「こんなわかりにくい本があるのか!?」というコトが衝撃だった.
本書は貨幣の社会哲学を標榜する.
貨幣の社会哲学では,貨幣の経済的機能をろんじるのではなくて,人間にとっての貨幣の意味を考える.それは,貨幣を人間存在の根本条件から考察する.人間の根本条件とは死観念である.こうして貨幣と死の関係が問題になる.
と言う.
現代思想は嫌いじゃないし,特に構造主義は好きな方だ.
読んでいくと,基本的には構造主義をベースにしつつ,モースの贈与論とからめているコトがよく分かる.
あと,ジンメルという名前が良く出てくる.
高校時代から一〇年以上たち,私の文系読書のスキルやベース知識も相当ついた今となっては,わかりにくさも,その質がちがってきた.
本書は「もうひとつ」だと思う.
本書では,貨幣の素材ではなく,貨幣形式を大切にする.
貨幣が何で出来ているかは問題では無いという.
それはそうだ. もはや貨幣が制度であること,そして信用というモノにより,価値がつけられていることは,むしろ経済学的な事実であろう.
多分,著者はそれ以上のコトが言いたいのだ.
狙いはモースの贈与論と絡ませる中で,贈与と死,そこに潜まれる情念を貨幣の中にねじこみ,さらに,人間にしかないものとしての 墓,贈与,貨幣,権力と死の概念を結びつけたかったのだろうが,
その論理展開は,意外と不十分だ.
むしろ,はじめから死の概念と貨幣の結合を前提として,そこの論理に時間を割いていない.
中,二つの文学作品が「貨幣小説だ」として解説されるが,
あまり本質を語るのに適確な内容とも思えなかった.
面白い点も多かったので,あるが・・,
五章は面白い.
社会主義や共産主義的な左翼思想にみられる,貨幣淘汰主義を
批判している.
貨幣形式を廃してしまうと,貨幣による人間の支配はなくなるが,
原理的には,人間を人間によって支配,管理するしかなくなり,
直接的暴力へと発展してしまうのだ.
その実現が,ソ連,中国の文化大革命などであると考えると,繋がる点もある.
なぜ,左翼が暴力的になってしまうのか.
理性・合理的計画というのが,直接的で退廃的な暴力に結びつきやすいところを,本書は解いているように思う.
最近の僕の研究テーマ(自律分散型直流スマートグリッド)でも,あらわれるのだが,
貨幣による市場経済は,社会が自律分散システムとして 機能するためのキー媒体であると思う.
やはり,言語と貨幣は人間知能の生み出した二大シンボルシステムであろうと思う.