[353]不便から生まれるデザイン: 工学に活かす常識を超えた発想
2011-11-09 (wed)|カテゴリー:|
京大情報学研究科 川上浩司先生 初の単著でございます.
要はビブリオバトル発祥の片井研究室に私が在籍時に准教授であらせられた
先生でございまする.
# 現在は川上研究室を運営中.
私も分担に入れていただいている科研費
不便の効用を活用したシステム論の展開」 代表者:川上浩司 (平成21年度-25年度,科学研究費補助金 基盤(B),研究分担者) 「不便の効用に着目したシステムデザイン法の構築」代表者:川上浩司 (平成18年度-20年度,科学研究費補助金 萌芽研究,平成20年度より 研究分担者)などで,研究してきた「不便益」について,現時点での考えをまとめられた本です.
内容的には,「不便の益」というある種,工学者が聞いたら「え?」という概念を提示して,その例を示していく.
ヒューマンインタフェース,マンマシンシステムや自然農法,TRIZなどの学術的キーワード,考えを絡めながら諸領域の関係を議論していく.
片井研にボクが在籍していたために免疫があるだけかもしれないが,それらが,非常に自然で,きれいな文章でつなげられているので,すんなりよめる.さすが.
後半では,そのような不便益の考え方に基づいて設計してみたツールなどの例があげられている.
この中に,我々の知的書評合戦ビブリオバトルも加えていただいている.
さてさて,内容を読んでいると,「これが工学の先生の本なのか?」と,思われる方もいるかもしれないが.
僕自身は「工学」感をビンビンに感じた.問題意識の持ち方,論理の進め方の堅実さが非常に工学的.健全だとおもう.
不便の益 などというとりとめもないものを考えるときに内包的なアプローチと,外延的なアプローチ双方でせめ.特に外延的なアプローチ,つまり,事例を集めて,分類学からスタートするという非常にまっとうな歩みの進め方は,学問かくあるべき,かもしれない.
研究開始からかなり長い時間のたった今だから,十分な量の事例をあつめ,そこにホンノリと構造が見えてきという感がある.
ある意味,身内ということもあるけど,一読していただく価値はあるかとおもう.
さてさて,
一方で,この本が,一体なんなのか?ということを考えると
などに近い,文明論なのかもしれない と思った.
便利さとは何か?を問うことは,本書でも言うとおりに,
省労力・時間短縮 を議論することである.
モモでもテーマにあげられているように,近代文明・貨幣経済とは「時間泥棒」である.
それに対して,地域通貨,減価貨幣みたいなものがある.
ここから,近代における時間 について,不便益から歩みを進めるとおもしろいのではないかな?と思った.
及び,ふと感じた議論点をあげると
機械系,工学からのアプローチということもあり,「価値」「機能」についての視点が非常にプロダクトアウト的であるのが気になった.つまり,製品そのものに価値や機能があるという暗黙の諒解があるようにとれる節がありました.
人工物は設計者の手でデザインされるが,消費者,マーケットにより解釈される.このポストデザインのプロセスで機能や価値が生まれる.
便利か不便かという問題も,プロダクトの中だけに見ていたのでは,いけない気がした.
製品の記号過程ですな.
ぜひ今後の議論ではそういうことを盛りこんでいってほしい.
あ,ボクも分担研究者なので盛りこんでいきたい.
そういう事も含めつつ,是非お読みいただければとおもいます.
# あと,川上先生,いわゆる 文献の「孫引き」が数カ所ありましたよ.# いけませぬよー.# とくに「もしドラ」からのドラッカー引用はいかがなものかとー.(^^ゞ